先輩の仕事を眺めながら、私は横目で選手達を見ていた。
私はバスケなんて体育の授業でやったくらいでほとんど初心者だし、バスケ部の本格的な動きを見るのも初めてだった。
だからか、選手達の動きにすごく惹かれた。

その中でも、ある選手から目が離せなかった。
その人はあまり背が高くなく小柄ながらも、誰よりもしなやかな動きをしていた。
小柄を活かしているのか、動きが細かくて早い。それは初心者の私から見ても頭ひとつ飛び出ているように見えた。
きっと先輩なのだろう。


「おーい!ちょっといいー?」

先輩に呼ばれハッとする。
気付かぬうちに考え事にのめり込んでぼーっとしていたようだった。
私は軽く頭を振ると、先輩の方へ向かった。


「凛先輩、どうしましたか?」

「これから自己紹介があるみたいだから集合をかけるの。だから私達もここで待機みたい。」

先輩の言葉のすぐあとに部長から集合、という声が響いた。
それに続いてはい、と気合いの篭もった声が色々なところから聞こえてくる。
しばらくしないうちに、体育館の入口にみんなが集まったようだ。

「えーっと、今日から本入部だし、1年には自己紹介してもらいます。はい、1列に並んでー。」

部長の言葉に1年生がゾロゾロと動き出す。
そのまますぐに左の方から自己紹介が始まった。
私は同じ部の仲間として必死に顔と名前を一致させるように何度も頭の中でリピートする。
それが1番最後になった時だった。

「長谷川亮です。」

その姿はさっき私が見た、小柄ながらも誰よりもしなやかな動きをしていたひとだった。
先輩だと思っていたのに同い年だったみたいだ。

「ポジションはスモールフォワードをやってました。よろしくお願いします。」

まだまだ知識のない頭で私は思考を巡らす。
確かスモールフォワードは1番点の取れる人がやっているポジションだ。そう、エースをやるような上手い人が。
そう考えると、さっきの彼の動きにも納得がつく。


私は綺麗な動きをする彼をもっと知りたい、と思った。