普段の夜空は、月のその輝きに星々は少し霞んで見えていた。でも、今夜は違う。その眩いばかりの輝きは、思わず目を細めたくなる、でも目が離せない。目を離すことが許されない。その圧倒的な輝きと群れは絶対的な何かを、確かに持っていた。
人は『今なら死んでも構わない。』という瞬間がある。僕のそれは、まさに今だ。この沢山の星々に見送られてこの世をされるなら、寧ろ本望とも言えるだろう。
美しいモノほど、命を脅かすものはない、心からそう思った。
そして僕は、その視線を外すことを許されない星空を、ただただ見つめることしか出来なかった。

僕は今、どんな表情をしているのだろうか。
きっと、この夜空に不似合いな間抜け面なのだろうか。だとしたら、とても滑稽だ。まるで、美人の隣で挙動不審になる男子中学生じゃないか。
(例えではなくて、今起きていることが。)
心の内でぼそっと呟いてみる。
対して面白いことを思ったわけでもないけど、第三者目線で想像するともっと笑える。
自分のつまらない妄想に、つい顔が緩む。
「綺麗ね、これはきっとペルセウス座流星群。」
「うおっ…!」
背後からかけられたその声に、思わず身体が飛び退く。
「そんなに怖がらないでよ。ほらほら、流星群、見よ。」
不意に頬に当てられた手に、心臓がドキリと跳ねる。その感触は、夏なのにあまりにも冷たくて少しびっくりする。でも、優しさを帯びたその手は、とても心地良い。