「あ、め…?」

教室の窓側、後ろから2列目。

ぼそりと呟いた声は、クラスメイトの騒がしさによってかき消された。

外を眺めていたら、ポツポツと雨が降ったのが見えた。

おかしいな…予報だと今日は一日晴れだって言ってたのになぁ。


広瀬 詩織(ヒロセ シオリ)。

セミロングの茶髪。身長156センチ。

今年の5月、誕生日を迎え16歳になった。

入学してから約一ヶ月が経った今、私だけがいまだ慣れないクラスで授業を受けている。


「るっせーなお前ら!!静かに俺の話聞けや!!!」


教卓をバンッと思いっきり叩き怒鳴ったのは、数学教師の田辺 純一(タナベ ジュンイチ)。

チラッとそちらを見ると、教卓の前で手を挙げる男子が一人。


「んな言葉遣いしてると彼女出来ねーよ、せんせー」


あ、太陽くん。

…じゃなかった。えっと、彼は泉 陽翔(イズミ ハルト)くん。

このクラス、この学年の人気者。

いつも誰かと一緒にいて、必ず彼の周りは笑顔だ。

太陽みたいな存在だから、私は密かに太陽くんと呼んでいる。


「あのなぁ…数学の勉強と俺の恋愛事情は関係ねぇんだわ」


教師とは思えない口の悪さに、思わず苦笑する。


「勉強ばっかしてっから彼女出来ねぇんすよ」


太陽くんの一言で、クラス中に笑いが起こる。

私、太陽くんと同じクラスなのに一言も話したことないな。

そんなことを思いながら、また視線を窓の外に移す。

昔からクラスに馴染むのが下手くそだった。

明るい子たちと話すのは大きなイベントがあった時くらい。

それ以外は、隅でそっと大人しいグループにいる。

その方が安心だし、平和だし、ね。

けど内心、太陽くんみたいな人たちと仲良くなりたいな、なんて思っている。


「ったく…んじゃ、広瀬。問4解けたか」


「は、はい!」


急に指名されたので、ビックリして思わず大声で立ち上がってしまった。

すると、太陽くんが振り向いた。

あっ…、目合った。

けどすぐに逸らされてしまった。

ふぅ、と息を吐き、手元のノートを見て答えを口にする。


「せーかい。このクラスじゃ広瀬がお手本だな。お前ら見習えよー」


先生がそんなことを言っても、クラスの私語は止まらない。

私は静かに腰を下ろし、シャーペンを持った。


授業終了のチャイムが鳴った。


「だぁぁ!!お前らに構ってたら今日の範囲終わんなかったじゃねぇか!!」


教科書を置き、脱力した先生。

この1年1組は、学年の中で一番やんちゃなクラスなんだとか。

多分、真面目に授業を受けているのは私と…


「詩織、答え合わせしよ!」


私の友達、櫻井 夏子(サクライ ナツコ)ちゃんくらいだと思う。