「寄るんじゃねぇ変態」

「お前それ、俺にとって誉め言葉だって知ってた?」

「知らねぇし知りたくもねぇよ!」


努めて怒気を孕ませて声を張り上げた私は。

どこどこ鼓動する自身の心音がヒロヤにばれてしまわないよう必死だった。







「いいから退けよ、マジで邪魔」


ばれてない。絶対に、ばれてはいない筈。

顔を顰めて不満を前面に押し出した表情でそう述べた私は、誰がどう見ても不愉快そのものの筈だった。









―――――なのに、


「はいはい、それは無理だっての」









又もや落とされる微笑。

妖艶に細められた瞳から際限なく放たれる色香。

絡め取られた隻手の指先。

顎先に添えられた骨張った掌の指先に、至近距離から覗く双眸。












――――口角を上げたヒロヤが顔を斜めに傾けて近付いてくる様を、私は身動きひとつ出来ずに凝視していた。












「…………ユウキ」


其の行為に及ぶ間際、ヒロヤの唇から落とされた甘美な声が私を呼ぶ。

それが私の行動を縛り付けて離さない。心の奥底を掴み取られたみたいに。










嗚呼、これが夢なら、どれだけ良かっただろう。