冷静に言葉を音にした俺を見て動揺したのは、親父ではなくお袋だった。
「――………宏也、」
困ったように視線をさ迷わせる彼女は躊躇うように一度顔を俯けると、木製のチェアに腰掛ける親父に目を向ける。
まるで、何かを嘆願するかの如く。
「あなた……、」
「何だ」
「なんだ、って。やっぱりこの話はもう少し後にするか、別に宏也を無理矢理引き込まなくても―――」
「お袋」
表情ひとつ違えない親父に焦りを浮かべて言葉を向けるお袋を制して、尚も此方を真直ぐに見詰める男と向き直った。
俺は元から兄貴のところで役に立てれば、と思っていたから。
お袋はこのことを知らない。しかしながら兄貴と俺の和解を見届けた親父は知っている。
腕組みをして表情を変えずに俺を見る親父に、聞きたいことは一つだけだった。
「俺の"タイムリミット"を今ここで決める。それでも構わないか?親父」
「………――勿論だ」
兄貴がそうしたように。
サトルが卒業間近に親父の経営に携わり始めると決めたのなら俺は――――