気付かなかった自分自身に思わず舌打ちを零しそうになった。

ずらっと画面を埋めるのは両親の名前で。



「ジイ、親父とお袋は?」

「つい先程タクシーで病院に向かわれました」

「そうか。分かった」









言葉を落としながら俺は自分の部屋へと向かう。

その傍らで着信画面にタップしたスマホを片耳へと宛がい、深く息を吐き出した。


「(落ち着け、―――…落ち着け)」









長く続く螺旋階段を駆け上がっていく。

最後の段差を上りきったときに鼓膜を叩いた低い声音が親父のものだと分かると、漸く溜め込んだ息を吐き出すことが出来た。








「親父?悪い―――…、俺」

"宏也か。いや、いいんだ。今帰りか?"

「メール見た。なぁ、なぁ………嘘だろ?」



――――ウソだって、言ってくれよ











そんな嘆願するような俺の言葉も意味を成さず、無情にも現実は残酷なものとして降り掛かる。

電話口向こうの親父は一度だけ息を詰めると、徐に言葉を吐き出した。




"――…全部本当の話だ"

「嘘、だ」










"智《さとる》が事故に遭って、急死、した"