「はー……、またこれだから昴くんは」



数秒の沈黙を経由して初めて言葉を落としたのは、額に華奢な隻手を宛がって溜め息を吐き出す少女だった。









「分かってない、もーほんと分かってない」

「嘘だろ…!どんだけ力説したと思ってんの」

「だって、」



そこまで音にした少女は、くるりと身体の向きを変えるとココアの入ったマグを手にする私と向き直った。

その瞬間ふわりと舞う漆黒のロングヘアー。











「女の子が髪を切るのに、どれだけの勇気が要ると思ってるんですか」









呆れ返った表情と、溜め息混じりの台詞。

それらを全て携える少女は此方との距離を完全に詰めると、その細い指先で私の髪をするりと梳いた。












「こんなに綺麗な髪なのに、切るなんて勿体無いですよ」

「あー…、うーん、でもなあ」

「昴くんは男だから分からないかもしれないですけど、髪は女の命って言うくらい大切なんですから」

「でもー…、髪切らねぇと男装は厳しいだろー……」





どくんどくん、と。早鐘を打つ心臓部分を服の上から押さえ込む。