「はァ?見てねぇじゃねぇか。今の今まで船漕いでたくせに通用すると思ってんのか」

「目は瞑ってたけど、ちゃんと見てたんだよ」

「テメェは神の化身か」

「………」

「ほら見ろ、寝てるじゃねぇか。おいコラ変えるからな」

「待て。見てる」




テレビに視線をじっと伸ばしつつ、横で喚き散らすヒロヤを尻目に懸けてやる。

まるで何処ぞの兄弟のようにチャンネル争いに勤しむ私たちを見つめる、幹部たちの微笑ましい視線なんかガン無視だ。


最終的に面倒になった私は、ヒロヤの手からリモコンをふんだくる。

それに数秒遅れで気が付いたらしい奴が「てめぇ」と青筋を立てて睨め付けてくるけれど、そんなの無視に限る。

視界を占拠するテレビ画面。確かに寝ている私が独占するのも可笑しな話だから、今にもずり落ちそうな瞼を精一杯持ち上げながら。





ふうん、「鶴の恩返し」か。街中で鶴を見掛けることなんてまず無いし、私には無縁だな。

そんなことを考えていると、隣のヒロヤは漸く私の手からリモコンを取り返すことを諦めたらしく。

未練たらたらの眼で視線だけはしっかりと私の手中に注ぎながら、ぽつりぽつりと言葉をおとし始めた。





「じゃあユウキならどうする?」

「………、なにが」

「"鶴"とは言わなくても、困ってるやつ見掛けたら。いちいち助けるのか?」

「度合による」

「例えば?」

「……そいつ自身の力じゃどうにもならないと踏んだとき。絶体絶命だと感じたとき」

「それ以外の場合は放っておくのか?」

「俺が居るってことは、大体そうなんだよ。どうでも良い昼間なんか出歩かねぇし」