「どうすんだよ……お前テレビで式の日勝手に決めてただろ!?どうすんだよ!!」

「? 別にそのままでいいじゃねぇか。今はマテニ、マタ……マタドレス?あるし?」

「……マタニティドレス」

「それだ」

「それだ、じゃねぇよ。そういうことを言ってるんじゃねぇよ。信じらんねぇくらい人来んのにデキ婚だとヒロヤの立場悪くなるだろ!?」

「香弥ちゃん……俺を心配して……」

「もうやだコイツ。一回死んでこいお前」

「俺が死んだら泣くくせによぉ」

「………」




ニヤニヤと本来の調子を取り戻し始めたヒロヤ相手に、大仰なほど溜め息を吐き出してやる。

そんな私を見ても尚瞳を輝かせているバカ男。スーパーポジティブ思考も大概にして欲しい。


しかしながら、締まりのない笑みを瞬時に引っ込めたヒロヤを見て私は目を丸くした。

こういうときのコイツは苦手だ。だって、何を考えているのか解らないし。








「俺にだって考えくらいあるぜ?」

「……なに」








口角上げて私を振り返ったヒロヤ。

思わず警戒しながらその姿を見つめていれば、更に笑みを濃くしたそいつはと言うと。







「俺らって世間様には政略だと思われてるだろ?その裏をかくんだよ」

「は?」

「政略結婚で丸まった筈の夫婦が式前にデキた。仲良しアピールする絶好の機会じゃねぇか」






無意識の内に白目を剥いていた私の反応は正常なものだと思う。

だから何だよ、と畳み掛けるように口にすれば。一層妖艶で、僅かな隙すらも存在しないような笑みを湛えて私を視界に閉じ込めたヒロヤはこう口にした。






「ここからは俺の仕事。香弥ちゃんは身体大事にしとけ?」







心底狡いと思って私が外方を向く2秒前。






        ―END―