ぶすっと膨れ面もそのままに。丁重とは言い難いけれど、お断りした筈なのだけれど。



「あ?わり、聞こえなかったわ」



絶対嘘だとわかる台詞で私の言い分なんて一蹴した男は、無駄に甘美に染まった声音で言葉をおとす。









「これからよろしく、花嫁さん」

「まだ嫁じゃない」

「まだ、ね」

「……ひとの揚げ足ばっか取って―――」





「はいブー。ちょっと黙ろうか、香弥チャン」











     彼
     と
     彼
     女
     の
     行
     く
     末







「なあ、親父」


ユウキの居るであろう病室まで向かう傍ら、珍しく自分の手で車を走らせている親父に向けて流し目まじりにそう口にする。






「どうした、息子」

「その小馬鹿にしたような言い方やめろよな。あのさ、気になることあんだけど」






思案を巡らせながらも、言葉にすることは厭わない。

気になってずっとモヤモヤしてるよりはマシだ。



「俺が結城の披露宴に潜り込んだとき、なんでフツーに婚約者側で待機できたんだよ。あのときはガムシャラだったけど、どう考えても可笑しいだろ」






親父がなにか手を打ったとしか思えない。疑いなくそんな結論を導いていたけれど、


「言っとくけど、俺は何にもしてないからな」

「は?」

「宏也。必ずしも正解がひとつとは、限らないだろ?」






大回りのカーブに差し掛かってハンドルをまわしながらそう言葉にした親父を、呆然と見遣る。

疑問符ばかりを頭上に浮かべる俺を微笑まじりに一瞥した男は、更に一言。





「入り込んだネズミがどっちだったのか。考えてみりゃ、自ずと答えは出ると思うけどな」