『僕、小宮山宏也は――――結城興業社長の娘である結城香弥さんと、今日を以て婚約します』




衝撃的な発言を画面越しに受けてから、どのくらいの時間が経過したのだろう。

分からない。分からないけれど、


「香弥。固まってしまってるところ悪いが」





遠慮がちに父が零した言葉の内容を咀嚼するにあたり、



「彼が、到着したらしい」



――――それはもう、相当な時間が経過してしまったようで。






「父さん」

「ん?」

「あのさ……」



隣で立ち上がる父が、気を利かせて席を外そうとしていることくらい分かる。

でも、本当にいいのだろうか。そんなことを思ってしまって。


それを口にしたら良かった。普通に、「ヒロヤと婚約してもいいの?」と訊くことができたら。









でも、それが出来なくて。理由は他でもない私の独り善がり。

これを口にすることで、縮まったものの尚も敏感な父との距離に支障をきたしてしまう気がしたから。





――――でも、


「香弥」





何食わぬ声音で私の名を呼んだ父を見上げるように、視線を上らせる。

正直、まだ揺れてしまうほど心情が不安定だったことは確かで。


だって、父はヒロヤ以外の男と結婚させるつもりだった筈なのに。