* * *



宏也がこの部屋を去ったあと。

少し前から途切れることなく入っていた着信に応答するべくポケットに手を忍ばせた結城昭人は、軽い溜め息を吐きながらスマホを耳元へと宛がった。






『――――随分と可愛らしい刺客だな、佳宏《よしひろ》』

"そうだろ。久しぶりなんだから許してくれよ"

『馬鹿言うなよ。あの口振りからしてお前が来ると思うだろ、こっちは』







暫く沈めていたソファーから腰を浮上させた男は、苦笑とも取れる笑みをその口許に貼り付けて言葉をおとす。

そんな男の返答を受けた電話口向こうの男は、『ハハッ』と悪戯な笑みをおとすと。



"サプライズだよ、サプライズ。この俺が言葉通りにコト起こすと思う?"

『否』

"さっすが昭人くん、よく分かってる"








こうして笑み混じりに言葉を交わすのは何年ぶりだろうか。

昭人は思う。もしかすると、もうこんな日は二度と訪れないんじゃないかとすら感じていたから。





『あの子たちに感謝しないといけないな』

"それに尽きる、な"

『佳宏。お前の息子、いい子に育ったじゃないか』

"その言葉そっくりそのまま返すわ"







思い浮かぶ娘の顔は、幼い頃のままで。

少しだけ眉尻を下げた昭人は、まるで懺悔でもするように濃紺の色を絡ませた声音で、一言。








『――――できることならやり直したいよ、俺は』









レース調のカーテンから覗く大都会を漠然と視界に捉えたまま、ポツリとそう零したのだった。