漸く手の届く距離まで男を追い詰めた俺は、徐にぶら下げていた腕をその胸倉に向けて伸ばした。

殺してやろうと思った。本気で。

もう自分で自身を見失いかけていたのかもしれない。その、瞬間だった。









「――――宏也ッ、やめろ!!!!」








馬鹿みたいに大幅に鼓膜を揺らしたのは、聞き覚えのある野太い低音の声で。

その直前に響き渡った「バァン!」という大仰な扉を開く音でさえ耳に入らないほど、俺は自分の中に引き込まれてしまっていたらしく。






「………親、父……」








その姿を見て、初めて。

伸ばしかけていた腕を再びだらんと下ろし、呆然と鉄製の扉からずんずんと此方に向かってくる親父に視線の先を伸ばした。



躊躇う様子を全く見せずに向かってくる親父をただ、見つめる。

高級なそれと判るスーツに身を包んだ男は、険しい顔つきもそのままに眼前で立ち止まると。






「――――バカ野郎が」

「でッ」



思い切り固めた拳で、俺の脳天に殴り付けた。