『――――ユウキっ!!』


声を張り上げて立ち上がる。

相手の男に馬乗りになって殴り掛かるユウキの目にはもう、なにも映っていなかった。


闇と狂気に呑まれた横顔を見つめながら迫り立てられるように歩を進めていく。

声が、言葉が伝わらないことが。こんなにも焦燥を駆り立てる。







思わず零した舌打ちは必然のものだった。

纏わりつくニオイを振り払うように腕で口許を大きく拭い、尚も拳をかざすユウキの手首を掴みあげた。

相手の男のツラは、見たくねぇほどグチャグチャだ。





『もうそこらにしとけ、死んじまう』

『………』








しかしながら感情を失ったような表情でそのまま、ただひたすらに。

眼下で力なく睨め上げる男を見下ろすユウキには届いていないことは明確で。



『――――ユウキッ!!』








このときの俺は、"ユウキのため"だと言い聞かせながらも。きっと心のどっかでは別の感情に囚われていた、そんな気がする。

華奢な手首が折れちまいそうなくらい力を込めて、力いっぱい叫んで。


こっち見ろよ。

俺の声まで届かねぇとか、冗談やめろよ。

そんなツマンネェ面ばっか晒してねぇで――――




いつものお前に、戻ってくれよ。






もし仮にこの感情に名があるのなら、誰も教えてくれなくて構わねぇから。