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『ヒロヤさん!』

『一足遅かったか』


自分でも気付かない内に、眉間に刻まれていく複数のシワ。

生ぬるい鉄のような独特の臭いが鼻腔にこびり付いて離れない。それを一蹴するようにバイクから降り立ち、乱暴な足取りでソノ場に踏みこんでいく。






幾重にも重なるそれは果たして人間なのか。そう思ってしまうほど、血に塗れた一帯の光景はおぞましいものだった。





『―――うッ、』

『吐くなよ』


後ろに控える後輩の呻きにかぶせるように言葉を発する。

尻目で飛ばした視線で捉えたそいつは、慌てながらも大仰にぶんぶん首を振って頷いていて。

そうは言っても"そう"なる気持ちが分からないわけじゃねぇ。ただ、コレに向き合わなきゃならねぇだろ、俺らは。







『ユウキ見付けて、とっとと帰っぞ』







逃げ出したくもなる。それはこの場にいる全ての奴らに共通する感情だったのかもしれない。


――――ユウキ以外の、すべての男どもに。





地に伏せる男たちはきちんと呼吸していた。しかしながらどのツラを見ても塗ったように血を浴びて――いや、出していたのか。

そうさせた原因であるユウキを脳裏にふと、思い描く。

血に塗れた特攻服。奴の顔はんぶん全てが血に覆われていて、思わず首を振ってその映像を掻き消した。