数年前、まだアイツと俺が現役だったころ。

総長になって暫く経ったときに一度だけ、あいつ―――ユウキが壊れちまったことがある。




『ヒロヤさん!今ユウキさんが出て―――』

『わかってる。早く準備しろ』

『は、はい!!』








原因は分からねぇ。いや、俺なんかが容易く踏み入れていい問題だとも思ってなかったからな。

俺たちは互いの傷を舐め合うためにこの場に身を置いていたんじゃない。

だからこそ、それこそシビアな個々の家庭の事情には首を突っ込まなかった。それが暗黙のルールみてぇなモンだった。



『(…………壊れてくれんなよ、ユウキ)』



お前にはもう、守らなきゃならねぇ奴らが出来ただろ。











祈るように派手な刺繍の施されたそれに腕を通した俺は、既に待機していた仲間半数を連れて倉庫をあとにする。

思い出すのは荒々しく倉庫に戻ってきた今日のアイツ。

水曜だけは家に戻ると決めていた奴に、その"実家"で何かがあったことは始終を見ていた俺の目からすれば明瞭だった。