「―――…、はっ…」


乱れそうになる呼吸を整えながら、それでも足だけは休めずに視線で捉えた影を追っていた。

ヒールが邪魔だ。でも、それを脱いでいる間にも見失ってしまいそうで―――。





「(なんでっ、)」


逃げるんだよ。お前はなんで、私に背中を向けて逃げるんだよ。

酷く見覚えのある姿を視界で尚も捉えながら、ズキズキと痛みばかり増す心臓。






最近では見慣れてしまった、その漆黒の髪色。それにシンプルなピアス。

そんなごく僅かな装飾だけで映えてしまうのは、あいつのモトがいいからなんだろう。


以前大学に来たときに騒いでいた女学生たちの声を思い出す。

ずっと、ずっとそうだった。

噂の標的になってしまうくらいに整っている顔つき。以前の私なら気にもしなかった。




だって、ダチならそんなこと気にしないだろ。










いま私の心の内を支配する、甘く苦く白く黒い感情。

ぐるぐると渦巻くように胸を覆っていくのは一見矛盾した思いたち。



やっと決心がついて、次に会ったときは包み隠さず本音を打ち明けようと決めていた。


――――……それなのに、