と、そのときだった。



『あなた…!どうしてそんなヒドいこと、』

『あいつが勝手に出て行ったんだろう。中途半端に帰って来られるほうが迷惑だ』

『あの子は私たちの子どもですよ!?いい加減にしてくださいっ』

『お前こそ目を覚ましたらどうなんだッ』







固く固く閉じられた、玄関から聞こえる声はよく知ったものだった。両者とも。

言い合いのような大きな声音に目を見張ったことは事実。

しかしながら、私がもっと驚いたことは別にあった。



―――バシッ







乾いた音が鼓膜に絡みついて離れない。

今、なにを、した?


―――――アノヒトは母に一体なにを、



『分かったな。お前は俺には逆らわず黙ってればいいんだ』

『――……、……っ』

『アイツの鍵ではもう家には入れない。近所の笑いものなんて御免だからな、暫く家を空けてもらったほうが俺にとっても都合がいい』

『………』

『明日あたり、連絡でもいれておけ』












段々と遠ざかっていく足音と、押し殺すような声に涙を滲ませる彼女。

震える拳で金属のそれを握り締めた。

それこそ、肌の奥の奥まで食い込むくらい。



震える唇は寒さの所為じゃない。


明らかに、胸中を燻ぶるこれ以上ないほどの怒りに起因していた。