『ユウキ帰んのか?あー、今日水曜か』

『あぁ』

『気ぃ付けて帰れよー』

『ん』


部屋の中からひらひらと指先を泳がせるヒロヤを一瞥し、軽く頷いて鉄の扉を閉める。

これはいつかの私の姿。



丁度家のこと全てに反発していて、受け入れたく無くて。

昴さんに拾われて過ごしていく内に"聖龍"が居場所になりつつあったときの私。








『(……出来れば帰りたくなんてないけど、)』




この日は週に一度の水曜日。

アノヒトが唯一在宅する日ということもあって、渋々ではあったものの一度は帰宅すると決めていた。














――――――――――――…







静まり返った玄関の扉に鍵を差し込む。

ガレージに停められた車は目視で確認済み。


しかしながら私が焦ることも無かった。

だって、アノヒトよりも遅い時間に家の門を潜るなんてよくあることだったから。





『………、……』



おかしい。











何度差し込んでも奥まで辿りつかない鍵。

右に左に幾ら反転させても、まるで鍵を間違えたかのように扉は固く拒否を貫く。



そう、まるで私が鍵を間違えたとでも言うように。