――――ヒロヤとは、あの海で過ごした晩から一度も会っていない。

期待なんて端からしていない。

あいつの立場を考えても私なんかと関わって良いことがある筈も無い。



いや、違うか。

もしかしたらヒロヤは最初から私を通して"結城"を見ていたのかもしれないけれど、半端なタイミングで当事者である私にその事実が露呈してしまったから。







「お母さんごめん、今すぐ準備して行くから」

「………大丈夫、なの?」

「ん。最初から決まってたことだし」










パタン、と。閉じられた扉を視線で捉えるや否や、胸の最奥に留まっていた重苦しい息を吐き出す。


―――……深く。深く深く、深く






あれからずっと、ヒロヤのことは意識的に脳から追い出すようにしていた。

だって、嫌でも考えてしまうから。

無意識の内に脳裏にあいつの残像を呼び起こした挙句に、夢を見る。叶いようもない夢を。








私はあの男に騙されていたのかもしれない。

―――それでも構わない。


どうせ心の中で私が想うことなんて、この先ずっと誰に知られることも無いのだから。