「(あ゛ー……)」
きもい。早い所話付けてシャワー浴びにいくか。
最後まで腕に掛けたジャケットは着られることが無く。
自分の眼から見て未だ馴染むことの無い黒髪を片手で掻き上げると、眼前に構える大仰な扉を指の背で二度ノックした。
「親父?俺だけど、ちょっといいか」
「ああ、宏也か。入れ」
中から唸るような低音が俺を迎え入れる。
親父とは最近になってから本当に色々なことを話した。だからか、以前のような身の引き締まる思いは薄れてきたように感じられるのは気の所為では無いだろう。
「―――……ああ、」
にも拘わらず、だ。
昔に似た速度で心音を刻む心臓は、まさに今、これから親父に持ち掛けようとするコトの重大さを指し示していて。
扉に足を踏み入れる間際。
俺の脳裏を掠めたのは、昨晩見た夢に尚も囚われる沢山の硝子粒だった。