照らし出されたその奥からスレンダーなシルエットが浮かび上がる。

―――カツ、カツ、カツ





しんと静まり返った会場にその人物が履く革靴の音が鳴り響いていく。

そっと周りに視線を伸ばせば、漸く顔を晒した男を認めた女性が音無く息を呑んでいることを確認してしまった。



それを見てズキリと音を立てる心臓の所以なんて知らない。知りたくも、ない。

眉根を寄せて姿を現した男をそのまま凝視する。







ミルクティー色だった筈の頭髪は、何故か漆黒に落ち着いていて。

これ見よがしに両耳を彩っていたピアスはその大半が姿を消していた。

いま確認出来るのは、各ひとつずつ耳朶を装飾するシンプルなシルバーのものだけ。












何故この会場には敵社の人間が多く存在するかって?


―――それは、このパーティを催したのが其の敵社そのものだからだ。









緻密に絡み合った視線。

眉根を寄せてアイツを睨む私。


驚いたように目を見開き、何か言い掛けた男は壇上で口を薄く開いたものの。

直ぐに自らの使命を思い出したらしく、確実に合っていた筈の視線は強制的に引き剥がされた。









「―――――……ッ、」


その瞬間。

鈍くも鋭い痛みが私の胸に突き刺さり、一瞬本当に息が詰まった。