「――――ん、香弥ちゃん」

「、」

「香弥ちゃん。大丈夫?」



心配そうに此方の顔を覗き込んでくる母にハッとして視線を戻す。

最近こういうことが多くて困る。

いつの間にか思考の海にトリップしていて―――だからと言って解決策を見出せる訳では無い、のだけれど。









「(……駄目駄目、考えるな)」


意識せずとも脳裏を掠めるミルクティー色のヘアーと沢山の煌びやかなピアス。

知らずの内に思い出している、柔なムスクの香り。

それらを振り払うように頭を一度横に振ると、意識を集中するべく母親をきちんと見詰めた。







「ごめん、お母さん。何だっけ」

「んもー、聞いてなかったの?」

「ごめんって」


頬を膨らまして不満げに声を洩らす彼女は、今日も今日とて若々しい。

そんな彼女に苦笑を向けることで応酬していると、眉尻を下げつつも「しょうがないわねぇ」と言った母に再度視線を持ち上げた。










「――――香弥ちゃんはもしかしたら嫌、かもしれないけど」

「……うん」

「今度ね、大きなパーティがあるのよ」




そう言葉を口にした母に目線を合わせれば、彼女は困惑しながら視線を彷徨わせた。