『お兄ちゃん起きてー。』

お兄ちゃんを起こすのは私の役目だった。
お兄ちゃんはいつも

「もーちょい...」

と言って布団を深くかぶってしまう。
毎朝お兄ちゃんを起こすのは疲れるけど、起こすのが私じゃ無くなるのは嫌だ。

『起きないと遅刻するよ?』

「あー、もーわかった起きる起きる。」

めんどくさいとか呟いて、お兄ちゃんが起き上がる。その、少し機嫌の悪そうな顔とか、寝起きでゆるゆる歩く姿とか、やっぱり...

『好き...』

「んーなにがー?」

『なんでもないよー』

慌てて誤魔化すとお兄ちゃんはふーんと言ってご飯食べるぞーと言いながらリビングに向かった。
その後ろ姿すらかっこよく見えてしまう。

これはかなりの重症らしい。










お兄ちゃんはご飯を食べ終わると自分の部屋に着替えに行った。
しばらくして私も食べ終わり、着替えるために自分の部屋へ戻ろうとする。リビングのドアを開けると、お兄ちゃんが靴をはいている所だった。

いつもは一緒に出るのにどうしたのかなと思った。

『お兄ちゃん、もういくの?』

私が聞くとお兄ちゃんは靴を履きながら振り返らずに言った。

「おー、ちょっとやることあるから」

『ふーんそっか、いってらっしゃい。』

私はあえて何も聞かなかった。だってお兄ちゃんがやることがあるって言ったから。

やることって言うくらいだ、内容は聞かれたくないってこと。

「ん、いってきます。」

お兄ちゃんは振り返って言うとガチャとドアを開けて出ていった。私はドアが閉まってからも少しだけその場にいた。時間なんて忘れるように、ただぼーっとした。

『あ、着替えなきゃ...』

私はお兄ちゃんのあとを追いかけるように素早く着替えていつもより早歩きで学校に向かった。
通学路には2人組ばかり、その中をたった1人で歩いた。1人で歩くのは久しぶりだった。前に1人で歩いた時よりもなんだか悲しく感じる。

明日は、一緒に行けるかな...。