――嗚呼。
電話越しなのが、もどかしい。

そうじゃなきゃ、君を力強く抱き締められたのに。



じゃあねと通話を終了させてから、少しでも余韻に浸りたかった俺はしばらく携帯の画面を見つめた。

いつまでも後ろ髪を引かれる思いだったが、そろそろ昼休憩が終わってしまう。もうすぐ午後の仕事が始まる。



「(……っしゃ!)」



心の中で気合を入れて、今までにないくらいのスピードで仕事を片付けてゆく。
いつもなら眠くて仕方のない、やる気の出ない午後だが今日はそんなことはなく。



「お疲れ様です!」

「おー、楢原。今日はやけに頑張ってたな」

「はい、ちょっと。お先に失礼します!」

「はいはい。お疲れ」



上司に「若いねぇ」とクスクス笑われながら勢いよく会社を飛び出した。

腕時計を見ると20時30分を少し回ったところ。

いつもより全然早い帰宅が出来ることになった俺は、心も身体も羽のように軽くしてはるの家まで向かうのだった。