「もしもし?はる?」
『恭ちゃん?』
「すまんすまん。エレベーターに乗っとったから電波悪かったみたいや」
『そ、なんだ。ビックリした』
電話の向こうで、ほっと溜息を吐いたのが聞こえた。
心配、してくれたんやろか?
そんな小さなことにも嬉しくなって、電話越しでもニヤける顔を抑えることは出来なかった。
「もう家着いたか?」
『うん。今着いた』
「そうか。良かった」
家に無事に着いたことを報告する電話に、今度は俺がほっと息を吐く。
その向こうで聞こえる微かな布擦れの音や床をぺたぺたと歩く音が心地良い。
『………ねえ、恭ちゃん』
「ん?」
『………。』
「なに?」
『………。』
「なんか、あったんか?」
耳に馴染む心地良さに委ねていたところで、はるが沈黙を続ける。
そんなに黙りこくられたらさっきまでの穏やかな気持ちも消えてしまった。
何かあったんだろうか。
少し焦ったように早口になりながら尋ねる俺に、はるは言う。
