「気をつけて!帰ったらメールな!」



どうしようもない気持ちを、俺はなんとかぐっと堪えてそう叫ぶ。
それに笑って頷くはるをこのまま傍に置いておきたかった。


俺の中に眠る思いに気付かないはるは、そのまま背を向けて帰って行く。



帰ったら、はるがいる。

俺の大好きな笑顔で「おかえりなさい」って言ってくれる。
あたたかな体温でめいいっぱい幸せにしてくれる。


――頑張ろう。







「楢原さん」



踵を返した俺を呼び止める声にビックリして、少し目を見開いたまま振り返る。



「……水川さん」



振り向いた先には、いつもコーヒーを淹れてくれる派遣の子が立っていた。



「お昼買ったんですか?わたしもです」

「はあ」



ほら、と。
俺がはるにしたように、レジ袋をぶらぶらさせる。

それに適当な返事を返したところで、自分の腕に置かれた彼女の手を見た。


……なんやねん。この手は。