「どうしました?」

「、」


はっと息を呑んだ。
手を置いた窓ガラスに映る私は、酷く曖昧な顔をしていた。


「大丈夫ですか?」

「……大丈夫。」


外の凍えるような寒さと、室内の芯まで温もるような暖かさ。その温度差ですっかり曇ってしまった窓ガラス越しにひっそりと会話をする。

私の左斜め後ろに立っているその様は今日もすらりとしていて、着ている黒いスーツが妖しくきらりと光った。


「寒くはございませんか?」

「大丈夫よ」


つう、と窓ガラスに添えていた指先を下へ這わすと、水滴も共に這っていった。

そうですか、と。
外ばかりを見つめる私を終始見つめながら、部屋のドアに待機している彼は言う。


「そろそろ眠りましょう」

「……そうね」


ようやく窓から離れベッドへと歩み始めた私より先に、彼はベッドに近付く。布団を捲り、皺を伸ばし、私がすぐに寝れるようにといそいそと準備を始める。


「ねぇ。」

「はい」

「雨はいつ止むの」

「雨、ですか?」


そんな彼の大きな背中にふと問いかけると、彼は少しぽかんとした表情でこちらを見た。

私の寝床を整えてくれた彼に「ありがとう」と言いそこに滑り込むと、「いえ」と律儀にも返事を寄越しながら私の身体に布団を掛けた。


「そうですね。今は梅雨の時期ですので暫く降り続けるかと」

「……そう。」

「……雨はお嫌いですか?」

「…………そうね。」


――あれは、ひどく優しかった気がするのに。
思い出したいのに、思い出せない。