「(あ、)」


am 07:53。
最寄り駅に、今朝も通学電車が入ってくる。

プシューっと音を立てて開いた、一両目の一番前のドア。その大きな箱に躊躇なく乗り込み、いつもと同じ場所で、吊皮を持って立つ。

そんな俺の目の前の座席に、彼女はいつもいる。


「(今日も聴いてる……。)」


髪をかけている彼女の右耳から垂れる白色のイヤホンが、今日も彼女が音楽を聴いていることを教えてくれた。


今朝も、今日も、いつも。

そう、すべては”日常”であり、名も知らない彼女もその彼女を見つめる俺も、そして”他人”という関係性も、決して変わることはない。







――…ガタンッ。

彼女の気配を感じながら、流れ行く景色をぼうっと眺めていたときだった。


「っ、」


吊革に完全に身を委ねていた俺は、勢い良く揺れた車両に大きく身を揺らした。

吊皮を掴んでいなかった左手は、衝撃に耐えるため彼女の後ろの窓に咄嗟についた。


「す、みません」


突然近付いた彼女との距離の近さにあまりに驚いてしまって、ついつい言葉を詰まらせてしまった。彼女もどことなく目を丸くしているように見えた。

驚かせてしまった彼女になんだか申し訳なくて慌てて普段通りの立ち位置に戻ろうとするけれど、自身の背後の人たちが既に安定した場所を確保したようで、これ以上為す術がない。


あせる、おれ。

だけど焦れば焦るほど、深みにハマるもので。いつもなら耐えられるはずの小さな揺れにも敏感になり、さらに体勢を崩す羽目になる。


――…ああ、かっこわる……。