――それは、俺が紫煙を燻らせた時だった。


いつもの様に、黒いローテーブルに置いてあるガラスの灰皿を自身の前まで持ってきて、キンっと気高い音をたてるジッポで火を付ける。

そんな俺をじっと見てくるから「なんだ」と問えば、瞬時に瞳を煌めかせた。


「ねぇねぇ、知ってる?」


コイツがそんなことを言い出すのは、いつものことだ。それがコイツの癖だと言ってもいい。


「…………なんだよ」


紫煙を外に向けて吐き出しながら気怠げに視線をそちらに向ければ、悪戯に笑う。


「煙草吸うひとってね、口が寂しいんだって」

「あ?」

「だから、ね?」


それから俺の顔に影がかかったかと思えば、ふわりと柔らかく掠めるあまいあまい、唇。

僅かに目を見開くと、してやったり顔でふふっと笑い声を漏らす。そうして頭を傾げるコイツが、今は小悪魔に見えて腹立たしくて仕方がない。


「こうやれば、もう、寂しくないでしょ?」


それでも。
俺が煙草を吸う度に、こんなにやさしい攻撃があるのだと言うのなら。


「――――上等だ。」


いつでも来いよ。相手、してやる。ただし俺はこれだけじゃ済まねェから。

覚悟、しとけよ。





**煙草味の小悪魔キス
(やられっぱなしじゃ、つまんねェ)