「バンクラール卿の娘はお元気?」

今一番思い出したくない人物のことを問われ、心を見透かされたのではないかとソフィアは言葉に詰まった。

「特に問題は……ないかと」

思わず目を泳がせてしまい、ふふっとベアトリクスはそんなソフィアに笑みを向けた。

元々勘の鋭いベアトリクスだったが、こんな何もすることのない独房の中での生活では必然的に感性が研ぎ澄まされ、さらに思慮深くさせるのだろう。

「アンナ、アンナ……髪の色は栗色でくせがかっていて、目の色は濃茶ね。身長は……そうね、私より少し低いくらいかしら? ふふ、さそがし可愛らしいお嬢さんでしょうね」

ベアトリクスはまるで好奇心旺盛な少女のようににこやかに笑って、ぶつぶつとそんな独り言を聞き、ソフィアは目を剥いた。

「ベアトリクス様、な、なぜ……それを?」

ここまでアンナの情報については話した覚えはない。それなのに特徴や名前まで知っている。

(どうしてベアトリクス様があの娘の詳細を知っているの? まさか、本当に内通者がいる……?)