「俺は腕折った位で全然大したことなかったんだけど、兄貴はダメだった。運転席側、大破したからさ。その時……、友香が助手席に、乗ってたんだ」
助手席に友香さんが乗っていた理由。それは、話を手繰ればひとつしかなかった。
「友香さんって、お兄さんの彼女……だったの……?」
桜庭くんが小さく頷いた。
「友香さ、ガキの頃から兄貴のことずっと好きで。ずっと兄貴の事追いかけてて。兄貴が大学入った時に、千紗がものすげーゴリ押しして、くっつけたんだよ。
大学生と中三だよ? そりゃ、普通に考えて付き合うの渋るでしょ。つーか、よく付き合ったよね、兄貴」
懐かしそうに桜庭くんは笑う。
「事故の後、友香、全然目ぇ覚まさなかったんだ。特に目立った外傷もないのに、全然起きなくて。1ヶ月ちょいくらい経って……やっと目を覚まして。
うちの兄貴の車で事故ったんだから、すぐ見舞い行くじゃん? 俺見てさ『あぁ、良かった。満、無事だったんだね』って、言ったんだよ」
そんなに似てないと思うんだけどな、と零す桜庭くんの手は、冷たかった。

