「昨日、法事だったんだ。……俺の」
急に何言ってるの? と小さく笑ってしまった。
「生きてる人のご法事はしないよ?」
「うん。だから、俺、三年前に死んでんの」
「何言ってるの? 桜庭くん、ここに居るでしょ?」
私の肩に頭を乗せたまま、桜庭くんは左手を海にかざした。
「うんー。でもさ、俺が桜庭 湊だって思ってるだけかもしれないし」
「……私が知ってるのは、桜庭 湊くんだよ。ほかの桜庭くんは知らない」
私は桜庭くんの右手に手を重ねて、ぎゅっと握った。
「夏ってさ、時々すげー夕立ち来る時あるじゃん。ゲリラ豪雨とかさ。あの日も、そうで……電車降りたらすっげー雨降ってて家までどーやって帰ろうかなって思ってたらさ、兄貴から電話が来たんだ」
桜庭くんからお兄さんの話を聞くのは初めてだった。
「デートの帰りだけど、車乗せてくれるって言うから、有難く駅で拾ってもらったんだ。その帰りに、対向車線のトラックが転んだチャリ避けようとして急ハンドル切ってはみ出してきて……で、ぶつかったの」
波の音と重なって聞こえてくる、静かな桜庭くんの声。ザワザワと胸の奥が波立つのを感じていた。

