「ところでさ。若ちゃんって彼氏出来たの? 練習試合見に行ったのも若ちゃんが彼氏の応援って…………、えーと。とわ?」

 話題を変えたつもりだったのだろうけど、却って核心に踏み込んできた羽純に、私はカウンターに突っ伏してしまった。

「えーと、実はね。…………その、彼をね。好きだったの」

 ヒリッと胸が痛むけれど、それは今では大したことが無いように感じられた。だから、羽純に話すことが出来たのだと思う。

「…………まじで? 」

「うん。若菜に先に”好き”って言われちゃったから、私も同じ人好きって言えなくて……。で、そのまま失恋しちゃったの」

「そっかぁ……。とわ 辛かったね」

 ヨシヨシ、と羽純が私の頭を撫でてくれる。

「でもさ、代わりにものすごいの釣れたよ? 桜庭くんだよ? あれは狙って釣れるもんじゃないよ。海老で鯛どころじゃなく、イルカとか、鯨とか、ダイオウイカとか……」

 とにかくでっかい奴。と言う羽純。ダイオウイカ釣れなくていいよ。と私が笑うと、羽純は、ふっと真顔に戻った。

「桜庭くんさ、修業式の日、とわ居ないの確認してずっと困ったような顔してたよ。休み時間の度にとわのとこ来てくれてて、しかも1時間以上も待っててくれてたわけだしさ。……私は、桜庭くん信じたいなぁ」

 羽純の言葉は、私の心に、柔らかな羽根を与えてくれた。