ハッとして振り返ると、そこには先生ではなく、桜庭くんが居た。

「部活、休みじゃないの?」

 後ろ手でドアを閉めながら、桜庭くんは苦笑した。

「武田に帰ったって言われたけど、靴あったから」

 そう言って桜庭くんは、私の傍らまで歩いてくる。

「教室行くって、先に言っとけばよかった。何拗ねてんの? とわ」

「拗ねてない」

「拗ねてるよ」

 屈んで私の頬を軽く摘んだ桜庭くんは、私を覗き込んできて、口元に笑みを浮かべる。

「とわ 隙だらけ」

 あ。と思った時には、3度目の唇を、奪われた。

 またしてもキスされたのに、3度目にもなると怒る気も湧かなくなっていた。その代わり、桜庭くんの表情のほうに意識が行く。

 なまじ整った顔立ちをしているだけにキスした直後の桜庭くんのドアップは心臓に悪い。しかも、笑うから。

 桜庭くんは、いつもキスした後、笑うからドキドキするし、昨日あんな事を言われたあとだから、余計に、意識してしまう。

「ねぇ……」

 桜庭くんが何か言いかけたけれど、それは、勢い良く開いたドアの音にかきけされた。