私の言葉に、桜庭くんがその端正な眉を歪める。

「俺、今 彼女居ないよ。それ、誰が言ったの?」

 桜庭くんの言葉は、私の心の中にあったモヤモヤを拭ってくれるものだったはずなのに、むしろ余計に苛立ちが募る。

「私、若菜と武田の事、全然平気だから。帰りも、子供じゃないし一人で帰れる。だから、もう迎えに来るの辞めてよ」

 桜庭くんの手が、私の頭に触れる。さっきは振り払ってしまったけれど、今は何だか、泣きたい気分だ。

 優しく私の名前を呼ぶ声が、逆立っている私の心を優しく撫でていく。

「とわは、話すとき大抵俺の目見てくれるんだけど」

 ……私は俯いたまま、足元に視線を投げる。

「とわは強がったり、思ってもないこと言う時、俺の目見ないよね。さっきの俺の目見てもっかい言ってごらん?」

 私は、屈んで覗き込んできた桜庭くんから顔をそむけて唇を噛んだ。

「今日も帰り、迎えに行くからね。待ってるんだよ?」

 くしゃりと私の頭を撫でて、桜庭くんは自分の教室へ戻って行った。