「……私、ですけど」
ツカツカと書道室の中へ入ってきたその人は、私の机の前で足を止めた。
大人っぽい前髪無しのロングヘア。カールしたまつ毛。結構しっかり化粧をしているように見えた。見下すように私を見下ろして、一方的に告げる。
「あなた、どういうつもりでミナトに近づいているのかしら」
……ミナト? 一瞬誰も思い浮かばなくて、その後、そう言えば桜庭くんって 桜庭 湊《みなと》 だったっけ? と思い至った。
「桜庭くん、ですか?」
「……迷惑なのよ。あなたみたいなの。大人しそうにしてて却ってめんどくさい。ちょっと優しくされたからって図々しくいつまでもしつこく付き纏って」
別に私、付き纏っているわけではないと思いますけれど……。
そう思えど、一方的に決めつけてくるその勢いに完全に気圧されてしまって、言葉が出てこなかった。
毎日何かしら私の教室に来るのは桜庭くんだし、桜庭くんの教室に行くのは、ノートを返してもらうためだし。これと言ってなにか桜庭くんに印象の良いことを特にされた覚えもない。 むしろ、いきなりキスなんてされて…………整理して考えたら、迷惑なことばかりが頭の中を巡る。
ツカツカと書道室の中へ入ってきたその人は、私の机の前で足を止めた。
大人っぽい前髪無しのロングヘア。カールしたまつ毛。結構しっかり化粧をしているように見えた。見下すように私を見下ろして、一方的に告げる。
「あなた、どういうつもりでミナトに近づいているのかしら」
……ミナト? 一瞬誰も思い浮かばなくて、その後、そう言えば桜庭くんって 桜庭 湊《みなと》 だったっけ? と思い至った。
「桜庭くん、ですか?」
「……迷惑なのよ。あなたみたいなの。大人しそうにしてて却ってめんどくさい。ちょっと優しくされたからって図々しくいつまでもしつこく付き纏って」
別に私、付き纏っているわけではないと思いますけれど……。
そう思えど、一方的に決めつけてくるその勢いに完全に気圧されてしまって、言葉が出てこなかった。
毎日何かしら私の教室に来るのは桜庭くんだし、桜庭くんの教室に行くのは、ノートを返してもらうためだし。これと言ってなにか桜庭くんに印象の良いことを特にされた覚えもない。 むしろ、いきなりキスなんてされて…………整理して考えたら、迷惑なことばかりが頭の中を巡る。

