……凄いなぁ。万葉集って奈良時代だったよね? 1300年も前のはずなのに、考える事、私と一緒なんだ。

 変な所に感慨を受けながら、ページをめくり続けた私だけれど、この和歌以上に心を惹かれるものは、見つけ出すことが出来なかった。

 ……試しに書いてみようかな。

 私は、その和歌をノートに書き写して、席に戻る。

 響きは好きでも、書いてみると難しい事もあるのだけど、この和歌は、不思議な程スルスルと手に馴染んだ。

 現代語に訳されると苦しくて泣きたくなるほどに自分と重なるけれど、万葉仮名だとなんだか安心する。

 これにしようかなぁ……と、ぼんやりと考えながら、もう一度筆を走らせてみる。

 書いていると、書道室のドアが開いて、背の高い人が入ってきたのが視界に入った。

 私が筆を置くのを待ってから、私の前までやってきたその人は、私の手元に視線を落とす。

「ほんと 字、綺麗だよね」

「桜庭くん、部活お疲れ様」

「とわもお疲れ様。待たせてごめんね」

 端正な唇が弧を描くのを見て、私 ホントにあの唇と2回もキスしたの? なんて事を考えてしまう。

 あの日以来、桜庭くんは、帰りに私を迎えに来てくれるようになった。

 どうしてこんな関係になったのか、私は未だによくわからない。