「とわ」

 呼ばれて顔を上げるのと、桜庭くんの手が私の肩に触れたのはほとんど同時。

 唇に、温かくて柔らかい感触。少しだけ濡れた音を立てて、桜庭くんは私の唇を解放した。

 ふっと吐息が触れて、目の前の桜庭くんの瞳が微かに笑っているのが見える。

「だから……なんでキスするの!?」

 2回目まで不意打ちで奪われて、思わず大きな声で言った私を桜庭くんはクスクス笑う。

「とわの唇、美味しそうだったからつい」

 美味しそうって……何それ。よく分からないけれど、なんだか凄く恥ずかしくなって頬が一気に熱くなる。

 私はその勢いのまま、聞きそびれていた質問をぶつけた。

「桜庭くん、なんで私の名前知ってたの?」

「んー、どっかで聞いた事あったから」

「なんでクラスも知ってたの?」

「武田と一緒でしょ?」

「じゃあ、どうして部活まで知ってるの?」

「さぁ。何でだろうね」

 質問に答えたようでイマイチ求めていたものと違う。そんなやり取りの〆を余裕の笑みではぐらかした桜庭くんは、私の頭を撫でた。

「帰ろう、とわ」

 武田と若菜がまたキスしたのかな? なんて考えていたのは、桜庭くんにはお見通しだったのかもしれない。