木陰で多少は涼しいはずなのに、鳴り響く蝉の声はその涼しさをどこかに吹き飛ばしてしまっていた。

 そんな蝉の声の中、私は重たい足を引きずって数段上にいる湊を見上げる。

「湊……お願い。ちょっと……まって……」

 本当に。冗談じゃなく待って欲しい。

 そんな息も絶え絶えな私を涼しい顔をした湊が笑う。

「とわ、運動しなさすぎ」

「だって……こんなの、聞いてない」

「じゃあ、ちょっと休憩ね」

 呆れたように笑って、私の隣まで降りてきた湊は、持っていたミネラルウォーターのキャップを開けて私に差し出してくれる。

 受け取ったそれを有難くごくごくと飲んだけれど、その程度で足が軽くなる訳もなく。石段にへたり込んだ私の頭を軽く撫でて、湊も隣に座ってくる。

「とわ、俺とジョギングしようよ」

「ぜったい置いてかれるからやだ」

「置いてかないって。3キロくらい余裕余裕」

「3キロって……長すぎ」

 だって中学校の持久走大会だって2kmだったのに。それでも学年で後ろから数えた方がずっと早いくらいで、ヘロヘロだったのに。そこに+1kmして、サッカー部でレギュラーだった湊と一緒に走るなんて絶対無理。