思い出したら、湊が隣に居るのが分かっていても、胸が痛くなって泣きそうになる。

「ごめんね」

 私の頬に手を添えた湊は、「あ」と微妙そうな声を上げて視線を階段側に向ける。

 その視線を辿ると、ちょうど階段を登ってきた瀧先生が、半眼でこちらを見ていて、私も思わず声を上げて顔を逸らしてしまった。

 なんで、こう。タイミング悪いの……。

「……桜庭は、入り浸る気なら入部届けをだしなさい」

「マジっすか。居る幽霊で良いなら」

「……居る幽霊って地縛霊かなんかか?」

「いや、地縛霊はちょっと……」

 それは嫌だと言った湊は、少し考えて私の頭をポンポンとしながら言った。

「これの守護霊辺りで、よろしくお願いします」

 湊の返事に苦笑いして書道室に入っていった瀧先生に続いて湊と私も書道室に戻る。

 柔らかな風が吹き込む書道室にも、窓から見えるグラウンドにも、穏やかな日常が、広がっていた。