「忘れさせてくれるとか言って大丈夫? 俺もう逃がしてあげないよ?」
ようやく私を解放してくれた桜庭くんは、私を間近で見下ろしてそんな軽口を叩くけれど、その表情はすごく嬉しそうに見えた。桜庭くんの手に頭を抱き寄せられると、私の顔は自然と桜庭くんの首筋に埋まった。
「大したことなくないよ」
心地よかったキスの余韻は、未だに私の身体から力を奪っていて、身体に力が入らない私を、桜庭くんが抱き留めてくれる。
「キス、全然大したことなくない。すっごくドキドキする。心臓壊れそう」
私の耳元で笑みを含んだ桜庭くんの声が響く。
「ん、俺もヤバい」
私の頬にかかっていた髪を桜庭くんの手が梳いて、その手の親指に顎を掬われて、私の顔は上向かせられた。
「ごめんね、とわ。俺……」
「湊」
桜庭くんの言葉の先を遮るように、桜庭くんの名前を呼んだその時、今にも泣きだしそうに桜庭くん表情が歪んだ。ごめんねのその先は、もう聞かなくてもいいと思った。
「好きだよ。ずっと大好きだったよ。これからもずっとずっと……ずっと湊のこと大好きだよ」
桜庭くんの首に腕を回してぎゅうっと抱きつくと、私の身体は背中がしなるほどに強く強く抱きしめられた。