「桜庭くん」

「……うん?」

「私、桜庭くんの心の中、いっぱいにしてあげられてた? 」

 私が映る桜庭くんの瞳が、一瞬の間を置いて笑った。

「いっぱいだったに決まってんじゃん。馬鹿みたいにとわの事ばっかり考えてたよ」

 少し屈んでくれた桜庭くんと、こつんと額が触れ合った。そんなことも判ってなかったの? と言われた気がした。

 今からでも、間に合うのかな?

 桜庭くんが私の中から武田を追い出して、私の中が桜庭くんでいっぱいになったみたいに。桜庭くんの心の中を、私で満たせたらいいのに。

 友香さんのことも、虚しさを誤魔化すために付き合った人のことも、私の大好きな優しい桜庭くんを悲しませたものも、追い詰めたものも、縛り付けたものも……何かも、全て。

 今からでも間に合うなら……、傍に居させて欲しいよ。

「桜庭くん、私、忘れさせてあげられる? 私……私ね、全部忘れさせてあげたいよ」