「とわ。……触っても、いい?」

 不安気な表情の桜庭くんに頷くと、大きな手がゆっくりと私の頬に触れた。その瞬間、水を注がれたように、何かが心の中を確かに潤していくのを感じた。だけど、カラカラに乾ききった心を満たすにはまだまだ足りなくて、もっともっとと心は桜庭くんを欲しがって、却って苦しくなった。

「あぁ、とわ だ」

 切なげな声と共に、桜庭くんが目を細めて笑った。触っても良いかなんて聞くほど、追い詰めてたなんて。

 私が、臆病だったから……。自分から桜庭くんに会いに行かなくても、桜庭くんはいつも私のところに来てくれていたから。いつも教室まで会いに来てくれて、部活の後に迎えに来てくれる桜庭くんに、私はずっとずっと甘えてたから。会いに来てくれないのは、私のことを嫌いになったからだって思い込んで閉じこもったから。

 桜庭くんが、会いに来ないんじゃなくて、来れなかったことに……ずっと気づかなかった。

「……ごめんなさい」

 私の頬の感触を確かめるように撫でていた桜庭くんの手が止まったので、その手に頬を擦り寄せた。

「ごめんなさい」

「とわ?」

「ごめんなさい……私……。ごめんなさい」