「やっぱりここに居た。遅くなってごめんね」

 ここで桜庭くんと会うのは、ほぼ半年ぶり。去年の文化祭の2日目以来だ。あの日のことを思い出すと胸がぎゅうっと締め付けられるような気がして、その痛みにも近い緊張を逃すように息をついた。

「よく分かったね、ここだって」

「だって、とわだよ? ここ以外どこにいるの?」

 桜庭くんは小さく笑って続けた。

「なんか新鮮。ここでこんなに暇そうにしてるとわ、初めて見た。机にすわってるし」

「あ……」

 私は慌てて机から降りて、スカートの裾を正す。だって、資料の棚の近くに椅子がないんだもん。1人の時は、ついつい近くの長机に座ってしまう。

 入口近くの壁に寄りかかっている桜庭くんの前に、歩いて行く。背の高い桜庭くんは、寄りかかっていても尚、私よりも頭ひとつ近く高い。

「べつに、そんな……いつも真面目に何かしてた訳じゃないと思うんだけど……」

「してたよ。いっつも黙々となんか書いてたじゃん」

「……そうだったっけ」

「そうだったよ。俺が来た時は、大抵なんか真剣に書いてた。俺に気づかなかった時すらあったじゃん」

 記憶を辿ってみたら、確かにそうだったかもしれない。

「うーん……雑念を払いたかったんじゃない、かな?」

 私の答えに「雑念って」と零して、桜庭くんが笑う。