「桜庭くんは、会いたくなかったかもしれないけど。私は、桜庭くんに会いたかったよ。すごく、すごく会いたかったんだよ」
見上げた桜庭くんは、どこか困ったような、悲しそうな顔をしている気がして、やっぱり迷惑だったのかと、胸の奥がジクジクと痛む。
何を伝えたらいいのか、判らなくなる。
「桜庭くん、あのね……私ね……」
「ちょっとまって」
私の言葉を桜庭くんの手が制した。
必死に紡ごうとした言葉の行先を失った気がして、私はきっと、酷い顔をしていたんだと思う。「ごめん、そうじゃなくて」と慌てて困った顔をした桜庭くんは続けた。
「みんな、すっげー見てるから」
言われて恐る恐る振り返れば、当たり前だけれどサッカー部の面々1年生から3年生まで、ほぼ全員が勢ぞろいしてこちらを見ていた。
「えーと、これから片して、着替えて、ミーティングして……」
困ったように私の背後に居るであろう部活メンバーに桜庭くんは視線を投げた。
「待っててもいい?」
「……待ってて……くれるの? 結構時間、かかっちゃいそうなんだけど」
私に視線を戻した桜庭くんのその声は、いつか電話で聞いたような、泣きだしそうな、掠れた声だった。
「うん。待ってる。ずっとずっと、何があっても待ってる」
去年、あの砂浜で、こう言っていたら良かったのに。そう思った。

