スイート ジャッジメント【番外編、別視点公開しました】


 尚のこと受け取れない私に、茅ヶ崎さんはボトルを尚も押し付ける。

「離すよ」

 そう言って手を離されてしまえば、桜庭くんのボトルを落とす訳には行かなくて、最終的に受け取ってしまった。そんな私を茅ヶ崎さんは「大丈夫だよ」と笑う。

「心配しなくて大丈夫。喜ぶから。渡してあげて」

 私は、なんだか夢の中に居るような気分にすらなっていた。またいつかのように顔を背けられて一言も話せない覚悟だってしていたのに。それなのに、私の手に、桜庭くんのドリンクボトルがある。桜庭くんと一言でも言葉が交わせるかもしれない。それだけで泣きたい程、嬉しい。

 フィールドから戻ってきた選手達の中、私がずっと視線で追っていた桜庭くんは、私の姿に目を留めて……足を止めた。

 だから、私は戻ってくる選手達の波に逆らって足を進める。

 桜庭くんは、いつかの学年集会の時の様に消えてしまうことなくそこに立ち尽くしていて、私は桜庭くんを絶対に逃げられない場所に追い詰めてしまったような、そんな気がした。