桜庭くんの心の中に、私はまだいるのかな?
茅ヶ崎さんの言葉は、私のささやかな希望に、また1つ火を灯す。
それでも、今日で最後かもしれないと思うと、私は試合の流れよりも、桜庭くんの姿を目に焼き付けたくて、ただひたすらに、大好きなその姿を見つめ続けた。
試合は、3-2で3年生が何とか意地を見せた形で終わった。
歓喜と寂しさが入り交じった空気は独特で、彼らが打ち込んだ部活への情熱は、その時間を知らない私にも伝わってくる。
やっぱり、今日は……辞めたほうがいいかな……
この空気に、私なんかが水を差すのは躊躇われる。
「茅ヶ崎さん、近くで観させてくれてありがとう」
選手達が戻ってくる前にこの場を後にしようとした私の目の前に、「はい、これ」とドリンクボトルが差し出された。
使い込まれたそのボトルには、掠れた“桜庭”の名前。見慣れた、桜庭くんの文字。
「まさかここで武田とか言わないよね?」
受け取らない私に、少し慌てた様子で茅ヶ崎さんが言うから、流石に笑ってしまった。
「そうじゃなくて……。私、部外者だから……」
「そんなの、気にしなくて大丈夫。あたしは、渡された奴が1番嬉しい相手が渡してあげたらいいと思ってるんだよね」
茅ヶ崎さんの言葉に首を横に振った。
「それは……私じゃないから」
私はもう、桜庭くんに喜んでなんて貰えない。

