試合に誘ってくれた茅ヶ崎さんの言葉は、私の心に希望の火を灯してくれたけれど、同時にもう一度桜庭くんに失恋する不安と恐怖ももたらしていた。
「瀬川さん」
呼ばれた方に顔を向けると、茅ヶ崎さんがこちらに歩いてきていた。
「試合、見に来た……んだよね?」
頷いた私を茅ヶ崎さんはベンチまで連れて来てくれた。 部外者の私に、近くにいた部員達、特に2年生の視線が突き刺ささる。
困惑した様子で、2年生のマネージャーの女の子が茅ヶ崎さんに声をかけたけれど、茅ヶ崎さんは「いいのよ。私が入れたんだから」と一蹴した。
茅ヶ崎さんはそうでも無いみたいだけど、文化祭の1件でサッカー部のメンバーからは良く思われていないのだと痛いほど判っている。
「受けようと思えば、どっかのスポーツ推薦も受けれなくないんだけど、受験するんだって。なのに、自分のノートの字が汚くて全然テンション上がらないって。馬鹿よねぇ」
茅ヶ崎さんはクスクス笑う。そして、背後の校舎を振り返った。
「あいつ、練習中よくあっちぼんやり見てるの」
あっち、と視線で指したのは、東校舎の端の方。3階には……書道室がある。
「最後まで、ちゃんと見ていってあげて」
私の答えを待たずに、茅ヶ崎さんはフィールドへと視線を戻した。

