あの時、私達が書道室に行ったのは、私が桜庭くんにもう少し一緒に居たいと言ったからだし、友香さんを刺激したのも私だ。私が桜庭くんの事を湊と呼んだから、私が全て知っていたから、友香さんは……何がなんでも桜庭くんを取り返そうとしたんだと思う。

 あれは桜庭くんが責任を問われるような問題じゃない。友香さんの愛情は歪んでいたけれど、あれは有り体に言ってしまえば私と友香さんの、桜庭くんの取り合いでしかなかったんだから。

 それなのに、桜庭くんが責任の一端を担わせられて、悪者の様に仕立てあげられているのが、私は許せなかった。

 文化祭の間、ずっと私のそばに居て、私を安心させてくれていて、最後まで、私に手を伸ばしてくれた桜庭くんが、友香さんがしたことについて私の元へ謝罪をするなんて……絶対におかしい。そんな形での示談は、私は認められない。

 私が示談を受け入れた理由は、ひとつ。桜庭くんに背負わせるものを少しでも軽くしたい。ただ、それだけ。

 友香さんの事情なんて、私にとっては、どうでもよかった。